ぎんちんの およめさんになれますように
冬
「オイ、お前さあ・・人間みてーな面してるくせに、なんでそんな大食いなんだよ。ありえねーよホント」
「本能だもん」
「・・あっそう」
「それより私の事オイって呼ぶの禁止ネ。」
「禁止って・・」
「神楽」
「あ?」
「神楽って、ちゃんと呼ぶアル」
神楽
「神楽」
いつまで経っても、降りそうにない雪を
こうやって二人、待ちぼうけした時もあったっけ
夏とか今頃ガキでもやらない七夕
笹の木に願い事
汚ねー字で願い事
そんな字じゃ神様だって読めないだろって言ったら
銀ちゃんが教えてくれないからって拗ねていつもみたいに押入れに
でも今じゃもうその願いはとっくに叶ってるって話
いろんな季節、いろんな場所
出会い別れのあれから、幾つもの月日が流れて
お前は字もうまくなって
背も伸びて
胸もちょっとでかくなって
俺は、神楽に
出会えなければ行かなかったような場所もたくさん行った
本当に
連絡を聞いた4人が病院に着いた時は、既に神楽は手術室の中で
看護師に容態を聞くと家族の方はそこで待機しろと
唯々冷たいイスで思考を遮断させるしかなかった
言い放たれた言葉がなんとも機械的に聞こえたのも、きっと僕だけではないだろう
そういえば、あれから時間は大きく流れている
だけど今となればどうだろう
一瞬がまるで永遠だ
それはどうして
それはこんな状況にまるで理解できない僕たちが
今までの二人の、言葉に出来ない何かあたたかくて巨大ものに
少しばかり触れてしまったから
今ならそう 理解した気になる
僕らはその壁の向こうにある世界に、そっと目を閉じて二人を想った
「・・マジかよ」
「どないしたアル」
「俺凶なんだけど」
「・・さすがマダオネすごい確変アル」
「マダオって言うんじゃねェェ!あとどこで確変覚えてきた!えっと・・うわっ最悪、心身共に注意とか」
「大丈夫ヨ!銀ちゃん私大吉だったもん!」
「何、自慢ですかこのヤロー」
「銀ちゃんが凶でも、私大吉アル。」
「・・うん。で?」
「二人でわったらプラマイゼロだから、吉アルよ!」
だってわたしたち、ふたりでひとつだもん
神楽、俺はお前に
お前の人生に何を残してあげられたんだろう
俺は沢山あるよ
不思議だな、お前の身体
髪の毛から足のつま先すべて
見てると想いが溢れて止まない
「・・銀ちゃ」
「神楽・・?」
神楽の瞳はいつ見ても美しかった
どうしてだろう。何故かいつもより愛しく思えて困った
「銀ちゃん・・・」
「神楽・・」
こうして名前を呼び合うのも
いつもより何故か、ずっとずっと愛しく思えてしまう
「神楽・・」
なんで?
花より先に実の出るような
種より先に芽が出るような
夏から春が来るような
そんな理屈にあわないことすんなよ
神楽は今にも死にそうな声で
自分の名前を繰り返した
俺も何度も、それに答えて
だけど白く冷たい、その空間は
お前の棺桶なんかじゃないだろ
「わたし、がんばって産んだんだよ」
神楽の横には透明な箱にはいった、小さい何かがあった
銀時は横目でみて、神楽をみて、それから右目から一滴の涙をこぼした
「がんばったな」
「・・えへへ・・」
震える手で神楽の頬を触る
やわらかい とても
湿っている
そうか きっと神楽も泣いているの
「銀ちゃあ・・」
「何だよ」
「さいごにだっこ・・」
最後って何だよ
そんな甘え方ねーだろ
精一杯、笑ってそういってみせた
だけどそう言っている傍から想いは溢れてとまらない
「何バカなこと言ってんだよ、銀楽の誕生日パーティーやるんだろ?」
「うん・・」
「お前鍋しないと、冬越せないんだろ?銀楽のために・・」
言っていることは自分でもよくわからなかった
だけどしょうがない
言いたい事が、伝えたい事が多すぎて大きすぎて
「だから・・だから神楽・・一緒にまた・・3人で一緒に帰ろう」
「・・・うん」
そうだ
一緒に帰ろう
今はそれだけでいい
見えない明日は来ないでいい
「銀・・ちゃん」
俺の名前は、お前の最期の言葉じゃない
神様は、神楽を連れて行こうとしている
スーパーで買ったカルピスを、薄めないでそのまま飲む神楽を
屋台で釣った金魚に、誤って七味をいれる神楽を
さむい部屋
神楽は寒がってないだろうか?
銀時は細く儚いその身体を抱きしめた
呼吸はしているのだろうか?ちゃんと心臓は動いているだろうか?
呼吸をしていないならさせてやる、心臓が動いていないなら動かしてやる
すると神楽はふと思いついたかのように、自分の持っていたてぶくろを銀時の手の上にのせた
「銀ちゃん・・わたし、銀楽のためにつくったの」
「ぶきっちょなくせに、やるなあ・・」
「すこしうるさいアルよパパ」
はっとなって神楽を見ると
もうその微笑みは母親そのものだった
俺が望んでいた、願っていた家族
そうか
永遠はないけど、かたちになれるものが。確かにここにはある
銀ちゃんのすきなとこ?
んーっとマダオだけど・・強いていえばね
わたしのパピー笑ったら銀ちゃんみたいに
目元にしわができるの
俺はね神楽
思い出すときりがないくらい
おまえのことが
すると神楽は微笑んで、銀時の涙を指でそっと拾い上げた
「 」
彼女が何か言ったのを覚えている
彼女が微笑んだ。
あとはよろしく、とでも言いたいのだろうか
そうじゃない。
「愛してる」
それからひと時
昔山頂でしたような深呼吸をひとつして
あなたの機関はそれなりに止まった
白くつめたいへやにふたりきり
うごかないからだを
じぶんの手でもういちど
とりもどすように
毎晩、寝る前にぎゅってするみたいに
つよくだきしめて
そしたらお前は恥らって手をやって
もう一度 微笑むんだ
さよならなんて言わないよ
生まれ変わってもわたし、あなたに会いにいくから
だからその目印に
わたしが少しでも早くあなたたち二人を見つけられるように
その手袋をはいた銀楽と笑顔で待っていて
約束だよ
子供を抱えるその小さな手は
いつのまにか母親になっていた
形ない私たちの愛を
形あるものにかえるもの
それが今までの
君と過ごした毎日
08.01.11
まためぐる春へ