春
産声をあげてから何度も何度も季節を重ねてきた訳だが
やはり春が一番心地よい気がする。
「アホの坂田さーん」
「あー?」
「お登瀬さんが呼んでまーす」
「あー。」
銀時は機嫌が悪かった。
神楽が父親の所へ出かけたのだ。
なんだかちょっと話てくるだかで。
忘れもしないあの父親へ結婚の挨拶に行った時は、本当に散々だった。
と、思ったのも最初だけで
その男は銀時の目をじっと見つめると、すぐに目を逸らし
呆れたように溜息をついた
最初から戦闘に入ってくるだろうと予想していたのが外れたので
銀時は横に俯いて考えた
最初に沈黙を破ったのは父親の方だった。
「・・いつか俺の元へ帰ってくるだろうと思ってな。
だけど結局親の元へ帰ってきやしねえ
しまいには腐った目ぇした男の、子孕んでしょーもねえもんだ
言葉も出ねえよ
だけど俺と母さんはコイツを
最初からしょーもねえ子に育てた覚えはねえ
俺と母さんの子だ
お前を選んで当然なんだろ」
俺は知っている。
あの父親があの時
恋に敗れたような顔をしていたのを。
ひとつ溜息をついて
銀時は階段を降りて行った。
しばらく振りに故郷へ戻り
母親の居る場所を拝みに丘へ行った後
たまたま仕事が休みになったらしい父親の実家へ向かった。
「おうおう」
「パピー、元気してたアルか?」
「おめーこそ大丈夫か、ちゃんと飯食わしてもらってんのか?」
「うん!うちはいつでも火の車アル」
「・・・ヤロー。今度会ったら火あぶりだって言っとけ」
神楽は俯いて微笑んだ。
まったくウチの父親はなんて寂しがり屋なんだろう。
そして、なんて私の事を想ってくれているんだろう。
考えてみれば私はファザコンなのかもしれない。
あんな憎まれ口調も、仕草も、行動も・・
「コラ。オイ」
「なに〜もう帰る時間アルよ」
「いつ生まれるんだ?」
神楽はそっと微笑んで
「12月ヨ。」
朽ちかけた火鉢の傍でうずくまる
戦っている時と打って変わって弱ってみえる淋しい背中。
「そうか。・・・そうか。」
それ以上何も言わなかった。
そのまま家を出たから。
何かを言ったのかもしれなかったが、
とにかく娘を想う父親の気持ちが痛いほど理解できた。
湿った空の下で少し涙ぐむと、
その後は銀時の事を思い出した。
「ババア、今日何日。」
「29日だよ」
「29か。今日は神楽が帰ってくるな」
「何時だい?迎えに行かなくてもいいのかい?」
「夜だから勿論迎えに行くー。さらわれたりしたら困っから」
キャサリンは今晩飲む酒を調達しに外へ
今は一階のカウンターでたばこを吸う老婆の話を黙って聞いている。
「で。なんで俺呼ばれたの?寂しかった?」
「ちげーよ。なんで寂しさを埋めるためにお前を選ぶんだよ。」
「じゃーなんだよババーあ〜今日は神楽が帰ってくる〜」
「コレ」
黄色い封筒。
銀時は女の差し出した封筒の中身を見て
「へ・・」
「使いな」
「何に、こんな大金・・」
「結婚式」
「あ?」
「結婚式。」
老婆は微笑む
するとキャサリンが戻ってきた。
今日は、神楽が帰ってくる。
ターミナルにはいろいろな雑貨や食べ物、花まで
なんでも売っていた。
色とりどりの両道をたくさんの人が行き交う中
神楽は丸い椅子に座り銀時の迎えを待っていた。
銀時から貰った時計を2分おきに見ながら
様々な雑音の中で目を閉じた。
「あら?チャイナじゃねぇかい」
いきなり頭上から声が聞こえたので
びっくりしてすぐに固まった。
「何びっくりしてやがる。こんなところで何してやがんでぇ。家出か?」
「違うアル。いきなり声かけないでよ。びっくりしたアル」
「じゃーこれからどーやってアンタに話かけりゃー良いんだい」
「知らない」
真撰組が此処をよくパトロールしているのは知っていた
「何で、此処に?」
「パピーとマミーに会いに行ったのヨ。」
「ほお」
沖田は背中をむけて、こちらへ来ようとした真撰組の男を軽くあしらった。
という事は此処に長く居て話をしようとしているらしい
「・・ケンカかと思った」
「違うもん。うちらいっつもラブラブだもん、ラブラブアル」
「そうかィ」
「うん。・・今も銀ちゃん迎えに来てくれるアル。」
「銀ちゃんねェ・・」
「オマエ、ぶっちゃけぎんちゃんのこと嫌いだロ」
すると男は声に出して笑ってみせた。
だけど目は笑っていない
「旦那に言ったの知らないだろ」
「何を」
「俺が、お前を忘れられないって事」
「・・笑えるアル」
「そうだろ?だけどオマエの旦那、いきなり目つき変わってさぁ」
「俺になんて言ったと思う?」
「え・・何て」
教えてやらない
男は次にそう答えた
なら教えるんじゃねーヨ
そう言うと考える間もなく
「『神楽がイク時の仕草、知ってる?』」
ターミナルは今日も様々な人が行き交う
先ほどは親子が泣きながら抱き合っているのを見かけた
いろいろあるんだなんて思って
「神楽ぁ、パピー俺のこと何て言ってた?」
「打ち首」
「こええええ!!俺もう一生会えないじゃん」
「あ、電気椅子だっけ・・」
「どっちもこえーよ。それより飯何食う?」
「銀ちゃんの好きなもの」
「じゃー銀楽に聞いてみよう。ぎんらくう、何が食いたい?おーそーかー。卵かけご飯かぁ」
「銀ちゃんの裏声キモイアル」
「キモイだってえ銀楽う、ままはひどいね銀楽ー」
銀ちゃんらしいっていっちゃあ銀ちゃんらしい
マミー、今日わたしは男の奥底にある心理を見た気がしました
マミーが言っていたのはこれに近いものかもしれないね
だけど私が今パピーのこと嫌いじゃないように
私結局銀ちゃんが大好き愛してる
沖田はきっと
あの時パピーと同じ事を考えたに違いない
みんな疑いをもって信じているんだ
人はこんなに寂しい生き物なの
人は皆、死にむけて生かされてるだなんてよく聞くけれど
信じながら疑い
疑いつつもそう願う
疑いつつも
だけど暗闇の中に闇があるように
信じる事でしか
行けない場所がある
君さえいればとか
君さえいなかったらとか
それでもいい
いつか
いつかだけど
そこに行ってみたい
「最近の神楽は詩人だな」
「違うヨ銀ちゃん、銀楽がそやって言ってるの」
07.09.29
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